結論|移行案件は2027年で終わらない。ピークを過ぎながらも、2030年前後まで続く構造がある
- S/4HANA移行案件がいつまで続くか、時間軸で理解できる
- なぜ2027年で一斉終了しないのか、3つの根拠がわかる
- 移行後もS/4人材需要が続く理由がわかる
- 今からS/4に関わることの意味とリスクがわかる
「S/4HANA案件は2027年で終わるのか?」
「今からS/4に寄せても、もう遅いのか?」
「ECC経験だけで、今後も通用するのか?」
そう感じてこの記事にたどり着いた方も多いと思います。
2027年問題という言葉が広まるにつれ、「ECCのサポートが終わる=S/4移行案件が終わる」という誤解が生まれています。しかし実際の案件市場は、そのように単純には動きません。
この記事では、S/4HANA移行案件の寿命を時間軸で整理し、その先にある需要構造までを解説します。先に結論を示してから、順を追って根拠を説明します。
結論|S/4HANA移行案件は2030前後まで続くが、ピークは2026〜2027
ECC 6.0(Business Suite 7)の標準保守が終了するのは、2027年12月31日です。
ここまでは多くの記事が解説しています。
ただし、移行案件はその日に終わりません。
理由は3つあります。
- 移行プロジェクトには1〜3年かかること
- 着手が遅れている企業がまだ多いこと
- 2030年末まで延長保守の猶予があること
これらが重なり、案件市場は2030年前後まで続く構造になっています。
時間軸で整理すると、次のとおりです。
| フェーズ | 期間 | 移行案件の動き |
|---|---|---|
| 立ち上がり | 2023〜2024年 | 着手企業が増加 |
| 山場 | 2025〜2027年(特に2026〜2027) | 本番移行が集中 |
| 萎みながら継続 | 2028〜2030年 | 減少しながらも続く |
2027年は「案件終了の年」ではなく、「案件が最も集中する山場」です。
一方で、2030年を境に移行案件は大きく減っていきます。
「終わらない」と「永遠に続く」はまったく別の話であり、その中間にある需要構造を理解することが、キャリア判断の土台になります。
S/4HANA移行案件のピークが2026〜2027年になる理由
なぜ2026〜2027年に山場が来るのか。
期限からの逆算と、着手の遅れという2つの力が重なる構造があります。
標準保守終了の2027年末を起点に逆算すると、本番稼働を2027年内に間に合わせるためには、2025〜2026年に要件定義や開発フェーズを進める必要があります。
中堅規模の移行プロジェクトでも総期間は9〜18ヶ月程度かかり、大企業では18〜36ヶ月に及ぶケースも珍しくありません。
2024〜2025年頃から「いよいよ動かさないと間に合わない」という判断をする企業が増え、駆け込み着手が積み重なっています。この駆け込みが、2026〜2027年の本番移行集中を生む構造です。
加えて、S/4・BTP・CPIを理解した人材は不足しており、ベンダー側もリードできる要員が足りていません。
案件量に対して供給が追いつかない状態が続くため、2026〜2027年はリソース逼迫のピークとも重なります。
S/4HANA移行案件が2027年で終わらない3つの理由
移行プロジェクトは1〜3年かかる
S/4HANA移行は、システム切り替えだけではありません。
構想策定・アセスメントから始まり、要件定義・Fit/Gap・データ移行・周辺IF改修・テスト・カットオーバ・初期安定化(ハイパーケア)まで、多くのフェーズが連続します。
規模や複雑度によっては、構想・要件定義だけで数ヶ月〜1年近くかかるケースもあります。
2025〜2026年に着手した案件が、2027年をまたいで継続することは普通に発生します。
標準保守終了の日付に、すべての案件が一斉に終わるわけではありません。
次に説明するとおり、着手時期の遅れがさらにこの構造を押し広げます。
移行着手が遅れている企業が多い
意思決定の遅れにはさまざまな理由があります。
- 景気の不透明感による投資抑制
- ROIが見えにくく、社内決裁が通りにくい
- アドオンや周辺IFが多く、移行範囲が膨らみやすい
- S/4や関連技術を理解した人材が確保できない
これらの理由が重なり、2025年時点でまだ着手に踏み切れていない企業も少なくありません。
延長保守が使えると判断した企業は、2028〜2029年着手でも「2030年には完了させる」という計画を立てる余地があります。
遅れている企業の案件が動き出すことで、移行市場は2027年以降も一定のボリュームを保ちます。
延長保守により2030年まで猶予がある
標準保守終了後の2028年1月から2030年12月31日まで、ECCを延長保守のもとで稼働させ続けることができます。
ただし、延長保守は高コストな猶予期間です。安心して放置できる期間ではなく、2030年末以降はECCを通常保守のもとで使い続ける現実性が大きく下がります。
この延長保守フェーズの存在が、「2027年以降も移行案件が発生し続ける」ことの構造的な根拠になっています。
ただし、S/4HANA移行案件は2028年以降ピークアウトしていく
2030年前後まで続くとはいえ、右肩上がりが続くわけではありません。
2028年以降は、純粋な移行案件の数が減少局面に入ります。
新規に移行を始める企業が減り、残るのは難易度の高い大規模案件や、着手が極端に遅れた企業に限られていきます。
現場で見聞きした範囲では、2028年以降に残る案件は「複雑な条件のものが多い」傾向があります。
複雑なアドオン構成、業種特有の要件、複数拠点対応など、難度が高い案件ほど後ろ倒しになりやすいためです。
移行案件のボリュームは縮小しながら、残る案件の複雑度が上がっていく可能性があります。
「移行ができる」だけの人材価値は、2028年以降に相対的に下がっていきます。
この点は楽観しすぎずに見ておく必要があります。
一方で、S/4を理解したSAPコンサルの需要は移行後も続く
ここで主語を変えます。「S/4HANA移行案件」と「S/4を理解した人材の需要」は、別の話です。
移行案件が減っても、S/4環境を導入済みの企業の数は増え続けます。
S/4を稼働させている企業が増えれば、その後に発生する別種の案件もともに増えます。
移行後に求められるのは業務最適化・標準化のやり直し
S/4移行後、多くの企業が直面するのは「移行したが、業務が変わっていない」という課題です。
移行プロジェクトでは、期限とリソースの制約から業務設計の最適化を先送りにするケースがあります。
移行完了後にあらためてFit to Standardの再徹底や業務標準化のやり直しが必要になります。
このフェーズでは、S/4の業務設計を理解しているコンサルタントが必要です。
移行に携わった経験が、そのまま次の役割に活きやすい領域です。
Clean Coreや拡張再設計の需要が生まれる
SAPが推進するClean Core(標準機能を守り、アドオンを外部化する設計思想)への対応も、移行後の重要なテーマになっています。
移行時に積み上げたアドオンを整理し、BTP(Business Technology Platform)上の拡張に切り替える作業は、S/4とSAPエコシステムへの深い理解がなければ対応できません。移行経験の蓄積が、この次のフェーズでも直接役立ちます。
BTP・データ活用・AI活用などの関連案件が増える
S/4移行後は、データ活用やAI活用への関心が高まる傾向があります。
S/4に蓄積された業務データをBTPで可視化したり、AI機能と連携させたりする案件が増えてきています。
現場で見聞きした範囲では、こうしたポストS/4案件は「S/4と業務の両方がわかる人材」を求めることが多く、移行経験の蓄積がそのまま次の案件に活きるケースがあります。
今からS/4HANAに関わるべきか?キャリア視点での答え
2030までは移行経験の価値がある
2030年前後まで移行案件が続くことを考えると、今からS/4に関わることには十分な意味があります。
特に、次のようなフェーズでの経験は市場価値として機能しやすいです。
- 業務設計・要件定義
- データ移行の設計と統制
- 統合・IFの仕様策定
- テスト統括・移行統括
これらは「S/4に触ったことがある」ではなく、「移行プロジェクトで任せられた範囲がある」として評価されるフェーズです。どの工程に入るかよりも、何を任されたかが、そのまま市場価値の差になります。
任せられる範囲と市場価値の関係については、任せられる範囲から市場価値を理解するで整理しています。
ただし移行だけに寄るのは危険
「S/4移行案件が2030まで続く」という事実を、「移行ができれば2030まで安泰」と読み違えないことが必要です。
移行案件の件数は2028年以降に縮小し、残る案件の難度は上がります。
単純な移行作業の担い手としての需要は、ピークを過ぎると相対的に落ちていきます。
移行経験を積みながら、移行後にも通用するスキルセットを意識して設計していく視点が、3〜7年目のSAPコンサルタントには特に必要です。
今後価値が残りやすい領域
移行経験の中でも、次の領域は移行後にも応用が効きます。
- 業務設計・Fit to Standard理解
- データ移行の品質管理と業務側との折衝
- IFや統合の設計
- BTPや周辺システムとの接続経験
逆に、特定ツールの操作やテスト工程の実行に特化した経験は、汎用性が下がる可能性があります。
同じ移行プロジェクトに入るにしても、何を任される立場で入るかを意識することが、その後の需要に大きく影響します。
S/4移行経験がどのように市場価値に変換されるかについては、S/4HANA移行スキルの市場価値を理解するでも整理しています。
まとめ|移行は終わりに向かうが、S/4人材需要は終わらない
S/4HANA移行案件は、2027年で終わらない。
プロジェクト期間の長さ、着手の遅れ、延長保守の存在という3つの構造から、移行案件は2030年前後まで続きます。
ただし、ピークは2026〜2027年。その後は減少する。
2028年以降は移行案件のボリュームが縮小し、残る案件の複雑度が上がります。「移行ができる」だけの人材価値は相対的に下がります。
それでも、S/4を理解した人材の需要は続く。
移行後の業務最適化、Clean Core対応、BTP活用など、ポストS/4案件によって需要は継続します。ただしこれは「移行案件」ではなく、「S/4理解者に向けた別種の需要」です。
見るべきは、移行の山だけではない。
今からS/4に関わることには意味があります。ただし、移行後まで含めた需要構造を見据えて、自分のスキルを設計していく視点が必要です。
移行が終わりに向かうとしても、それは「SAPコンサルタントの終わり」ではありません。求められる役割が変わるだけです。
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